サラリーマン讃歌
と言うよりも、到着していないとおかしい時間帯であった。

先程のシーンからほとんど出突張りであった俺は、舞台上の照明が全て消え、場面転換が行なわれる暗転になると、一度舞台袖に掃け、次の出番までその場で待機した。

真っ暗な舞台上では、裏方担当の黒子になっている劇団員達が忙しなく動きまわっていた。

次のシーンに必要である物と、必要のない物を大急ぎで入替えていた。

黒子達が俺の横をバタバタと通り過ぎて行く中で、俺は舞台袖の壁に掛けられてあった時計を、真っ暗な中で睨み付ける様に目を凝らして見た。

時計の針が八時四十六分を示していた。

残すシーンは、既に主人公に惹かれ始めていたヒロインが、自分自身の好きという気持ちに気付く恭子の一人芝居と、そこに主人公である俺が登場してラストシーンに繋っていくという場面のみとなった。

舞台上では既に恭子が登場しており、難しい一人芝居を彼女らしい表現の仕方で演じ続けていた。

俺はもう一度その場から客席を見遣る。

座席には《予約席》と書かれた段ボールが、ただ無造作に置かれているだけだった。

俺は天を仰いだ。

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