サラリーマン讃歌

~カーテンコール~

空見子を気にしながら、暫くラストシーンを演じていたが、芝居の終わりを告げる緞帳が降りきった瞬間、俺は空見子に慌てて駆け寄った。

座り込んで、未だに泣き続けている彼女を、俺は何も言わずただ抱き締めた。

空見子もそれに応えるかの様に、俺の首に手を回し、力を込めて抱き締めてきた。

「ごめんね、ごめんね…」

空見子はしゃくり上げながら、俺の耳元で囁く様な小さな声で、何度も繰り返し言ってきた。

俺は抱き合ったままの状態で、空見子を落ち着かせるように彼女の背中を擦ってやった。

「大丈夫……大丈夫だから」

ずっと謝り続けている空見子の背中を擦りながら、彼女が落ち着くまで俺も同じ言葉を繰り返した。

「私ね……サクくん、好きなの……直哉が……好きなの……」

言葉は途切れ途切れではあったが、しゃくり上げながら言う空見子が愛しかった。

俺は胸の中で泣く愛しい女性(ひと)を、強く、強く抱き締めた。

「俺もだよ。俺も好きだよ、空見子の事」

何事かと遠巻きに劇団員達が見守る中、俺達は人目も憚らず、抱き合い続けた。

その中に、空見子を連れて来てくれたであろう久保と梓の姿もあった。

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