サラリーマン讃歌
最終章
~それから~
「直哉ぁ~、忘れ物ぉ~」
俺はその声に振り返ると、空見子が息を切らせながら走り寄ってくる。
手には可愛いプーさん柄のハンカチに包まれた、お弁当を持っていた。
「あ、ごめん、ごめん」
「折角、私が一生懸命作ったのに」
頬を膨らませて怒った様な顔をする空見子に、俺は思わず微笑む。
二人で住んでいるマンションから結構離れているこの駐車場まで、空見子は走って来たらしく、ホンノリと額が汗ばんでいた。
「空見子の顔がもう一回見たくて、態と忘れて来たんだよ」
「嘘ばっかり」
そう言うと空見子は嬉しそうに微笑んだ。
「ありがとう」
俺はそんな空見子の口に軽くキスをした。
「何やってんのよ、朝っぱらから」
空見子は怒った様な口調ではあったが、顔は妙に嬉しそうだった。
俺は空見子の頭をくしゃくしゃと撫でてやると、車の鍵に付いているボタンを押すと車のドアを開けた。
「行ってきます」
俺は空見子に向かって軽く手を振ると、車に乗り込んだ。
「行ってらっしゃっい」
空見子もその場で手を振ると、少し寂しそうな顔をした。