サラリーマン讃歌
「そういう事だから頼むな」
そう言ってイスに座ると、田仲はもうお前らに用はない、と云わんばかりに書類に目を通しだした。
(また、俺かよ)
田仲は新人が入ってくると、なぜか俺を必ずといっていい程、教育係に指名してくる。
田仲の課には、俺以外でも新人を教えるくらいの実力と経験を持っている人間は何人かはいる。
にも関わらず、俺を指名してくるのは嫌がらせ以外の何物でもない。
「じゃ、用意できたら出発しようか」
そんな心の中の憤りを一切見せず、淡々と久保に指示を与えていく。
「桜井係長って、おいくつなんですか?」
営業を終え、帰社する途中の電車内で久保が唐突に訊いてきた。
「三十だよ」
「マジっすか!?もっと若く見えましたよ。てっきり二十四、五かと……」
確かに俺はよく若く見られる。結構童顔なのだ。
「いい過ぎだろ」
「いや。マジっす、マジっす」
久保はとにかくよく喋る奴だ。口を閉じると死ぬんじゃないかと思うぐらいに喋る。訊いてもいないのに、自分の生い立ちまで話してくる。
一日中、一緒にいると流石に疲れるが、どこか憎めない雰囲気を持っていた。