サラリーマン讃歌
そう言ってペコリと頭を軽く下げる空見子を見ると、俺は律儀な子だと思う。

当たり前と言えば当たり前なのだが、最近男女問わず、そういう事をしない輩が増えているのも事実だ。

会社の後輩に飯などを奢ってやることは結構あるのだが、会計の場になると、そそくさと出ていく奴とか、財布を出そうともしない奴などは結構いるのだ。

奢られて当たり前のようにされるよりは、一言、礼を述べてもらうだけで此方の印象もだいぶ違うものなのだが……

そんな親父の小言みたいな事を考えていると、電車がホームに入ってきた。

「そういえば、なんで動物園は好きなの?」

遊園地は「餓鬼みたいで嫌だ」的な事を言ってような気がするので、疑問に思い電車に乗り込むと訊いてみた。

「なんでだろう。自分でもよくわかんないや」

あまり考える様子もなく軽く答えた空見子は、何かを誤魔化すように窓に映る景色へと目を移した。

あまり触れられたくない部分だったのだろう。俺は話題を変えて駅に着くまでの間、空見子との会話を楽しんだ。




「ねえ見て、象だよ、象」

異常にはしゃぐ空見子を、不思議に思いながらも、俺はそんな彼女の横にいるだけで楽しかった。

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