サラリーマン讃歌
前から観たかっただけあって内容的には面白そうなのだが、今の精神状態ではなかなか頭に入ってこない。

映画よりも今日のメインイベントの事で頭が一杯なのだ。

映画を観終わった後、満足気に内容を話している空見子をよそに、俺は相槌を打つことしか出来なかった。

俺達はそのまま映画館の近くで夕食を食べ、電車で二十分ほどかけて、今日待ち合わせした場所まで戻ってきた。

「ちょっと歩かないか?」

バス停まで行こうとする空見子を呼び止めるように俺は言った。

「え?……うん、別にいいけど……」

空見子の家はバスで十五分程なので歩いて帰れない距離ではない。とりあえず空見子の家の方向へと歩き出した。

「どうしたの、急に?」

暫くしても何も話さない俺に空見子が不安そうに尋ねてくる。

「……うん」

気のない返事しかしない俺の様子を見て何かを感じたとったのか、それ以上空見子は突っ込んではこなかった。

会話もなくひたすら歩き、辺りが住宅街に差し掛かったきた頃、漸く俺は喋りだした。








「あのさ……俺…………」

なかなか言葉が出てこない。

「俺……空見子ちゃんとはだいぶ年が離れてるけど……」

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