サラリーマン讃歌
空見子は俺の横で、視線を地面に落としながら、何も言わず黙って聞いている。

「正直すごく悩んだ。俺にそんな事言う権利があるんだろうか?とか……」

俺自身も空見子の顔を見る事が出来ず、俯きながら喋り続ける。

「でも、やっぱり自分の気持ちには嘘はつけない……」

「俺……俺は……」

俺は意を決して顔を上げた。

しかし、その瞬間に捉えた空見子の表情を見て、俺は喉まで出かかっていた言葉を飲み込んでしまった。

空見子は何とも言い難い表情をしていた。

寂しさと、苦しさと、それでいて喜びも滲んでいる様な複雑な表情をしていた。

「……どうしたの?」

そんな表情をしている空見子に、俺は戸惑いながら思わず尋ねていた。

「……ううん、何でもない」

そう言い、首を振る空見子を、俺はただ見詰め事しか出来なかった。

「なんでもないよ……ホントに……」

言葉とは裏腹に空見子は、涙を堪える様に唇を強く、強く噛み締めていた。




また会話が途切れた。




暫く二人とも無言のまま歩を進めていると、小さな公園が見えてきた。

二人とも無言のまま公園内に入り、ちょうど中央の位置にあるべンチに腰掛けた。

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