サラリーマン讃歌
俺は何を見るでもなく、ただぼんやりと宙を見詰め続けた。

「仕事に打ち込んで何かを忘れようとしているのは別にいいよ」

高嶋はそんな俺の様子を心配そうに見ながら、諭す様な口調で喋り続ける。

「酒の力に頼るのも多少はいいさ」

「…………」

「お前、この一週間飲み続けただろ?」

「……ああ」

相槌を打つ事すら億劫ではあったが、じっと俺を見詰めている高嶋の視線を感じ、仕方なく答えた。

「顔色悪すぎるぞ」

「酒を飲まなきゃ寝れない」

「今日から辞めとけ」

「なんで?」

「体を壊すから」

「壊してもいいよ」

「俺が困る」

視線を合わさず、ただ淡々と答え続ける俺を見ながら、大袈裟に高嶋が眉間に皺を寄せる。

「……なんで?」

目だけ動かして、チラリと高嶋を見る。

「親友だから」

「はっ」

真顔で言う高嶋に、思わず笑ってしまった。

「それ以外にお前を心配する理由はねえよ」

ストレートに言われると結構照れるものだ。

「はっ」

もう一度馬鹿にしたように笑う俺を見ても、高嶋は真顔だった。

「お前は俺の心の友だ」

「……ジャイアンか、お前は」

「そうだ。お前の傷みは俺の傷みだ」

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