サラリーマン讃歌
たまに会社帰りなどに街でギターを片手に唄っている男や、仲間と愉しそうに踊っている女の子達を見てエネルギーを貰ったりした事があった。

今はそれすらもただの雑音にしか聞こえなかった。

ただ人がいる方へ、いる方へと足を進めていくだけだった。

「よろしくお願いしまぁ～す」

そんな中フラフラと歩いていると、元気よく何かのチラシを配っている女が俺の目の前にチラシを突きだしてくる。

あまりにいい位置にそのチラシが出されたので俺は思わず手に取ってしまった。

それを避けることさえ今の俺には億劫だった。

「今日の七時半からやるんで良かったら観に来て下さい」

それを手渡してきた女が笑顔で言ってくる。

そのチラシを見ると《劇団 ヒカリ》という文字が俺の目に飛込んできた。

どうやら商業演劇のようだ。

開演場所を見るとそこそこ人数が入るハコでやるようだ。

社会人になってからも何度かその場所に観に行ったことがある。

「もし来て頂けるんでしたらお連れしますよ？」

立ち止まってチラシを凝視している俺を見てその女が声をかけてくる。

「いいよ、知ってるから」

思わずそう答えてしまった。

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