PM13:00 2
暫くして。
「ああ……絵の具が」
白の絵の具が、切れてしまった。
もともと少なかったものだったので、多分持たないだろうと国枝さんも言っていたが、まだ半分も終わっていない。
殆どの部分が、まだどんよりと暗い闇のままだ。
「美術室から、取ってくる」
そう立ち上がった私の腕を、国枝さんが掴む。
「いや!あの、私が!」
いきます、と続けられる前に、首を横に振り、にこりと笑ってその手を解いた。
美術室へ向かう途中の廊下は、大きなハケやバケツ等、手に様々な道具を持った他クラスの生徒が忙しく走り回っており、ペンキの匂いに満ちていた。
台詞の練習をしている役者の声もあちらこちらから聞こえ、とにかく騒がしく、にぎやかで。
その雰囲気に少しだけ胸が高鳴り口元が緩んだ私は、何だかそんな自分が少しだけ恥ずかしくなって、歩調を速めた。
美術室、と札のある部屋のドアをがらりと開ける。
鼻につんとくる独特の匂いがして、思わず眉間に皺が寄った。
国枝さんの話によれば、美術室は半分に区切られており、壁を隔てた奥の部屋が画材置き場となっているらしい。
あちらこちらに散らばる画材やキャンバスを踏まないよう注意しながら、そこへと向かった。
奥へ奥へと進み、その部屋へと入る。
そこで、目を見開いた。
ずらりと並んだ、画材の数々。
名前を分からない、見たことも無い画材が、大きな棚一杯にぎゅうぎゅうに詰まり、今にもいくつかは落ちてしまいそうで。
私はただ、その数と種類に圧倒された。
慌てて我に返り、ゆっくりと部屋の中を歩きまわり絵の具が収納してある場所を探す。
やがて、色別に隙間無く絵の具が並べられた棚に辿り着いた。
そこから白の絵の具を探す。
……けれど。
白だけが、無かった。
首を捻って、もう一度あたりを見渡してみる。
そこで、あっと声をあげた。
「…見つけた」
棚の上。
「絵の具 白」と書かれたダンボールが、そこにあった。