PM13:00 2
一瞬、存在を忘れていた。
そういえば、さっき、五十嵐に主役で読み合わせをしましょう、と言われてこの空き教室に来たのだ。
眉間に皺を寄せた俺を、五十嵐は眉を下げ少し困ったふうな表情で見、わざとらしくため息を吐く。
――何故なのか五十嵐は、俺と二人きりになったとたんに態度をガラリと変えた。
俺の勘もあながち、外れていなかったか。
「そんなに警戒しなくても…。私、何もしてないし?」
ね?と首を傾げて、俺の顔を覗きこむ。
俺はそれにさらに眉間に皺を寄せ、視線を振り払った。
五十嵐はそれに大袈裟にため息を吐くと、芝居がかった仕草で両手を肩の高さまで持ち上げ、首を小さく横に振り、桜色の唇の端をにやりと持ち上げた。
「安藤さんのこと、考えてたんでしょう?」
視線をアーモンド色の大きな瞳に向ける。
その眼がまぶしそうに細められて、窓から入り込んだ光を受けて淡く光る。
「さっき、見ちゃったの」
そして、抜けるように白く細い両腕で、自分の上半身をきゅっと抱きしめた。
楽しそうに、笑いながら。