PM13:00 2
安藤
深い青緑色の黒板の上を、真っ白なチョークが走る。
書記の田中さんの、几帳面そうで、やや右に上がった字を、ぼんやりと眺めていた。
田中さんのチョークが止まったのを確認し、教卓に立っていた委員長がくるりと向き直って、ハキハキとした物言いで言う。
「では、このクラスの出し物『シンデレラ』の配役を決めたいと思います。
立候補したいという方は、今から役を読み上げますので、挙手してください。」
その言葉に、途端にクラス内が騒がしくなった。
委員長は困ったように微笑むと、ひとつひとつ、役を読み上げていった。
それでも誰も、手を上げるものは居らず。
私もまた、「できれば力仕事の裏方がいいな」なんて思っていた。
「立候補が居ない場合は推薦になります」
すべての役を読み上げ、少し間を置いた委員長は、そう言うと書記の田中さんと軽く目で合図を交わして。
するとすぐに、派手な化粧をした女の子―青井さんが、手を上げた。
「シンデレラ役は、亜美ちゃんがいいと思います!」
すぐに、ああ、と何処からか声が漏れるのが聞こえた。
…「亜美ちゃん」
五十嵐、亜美さん。
去年は校内のミスコンテストでミスに選ばれた美少女。
ふわふわで明るい色の髪、長い睫毛に覆われた、チョコレート色の大きな瞳。ぷっくりした唇。長い手足に白い肌。その整った顔立ちやスタイルには、女の私だって見惚れてしまう。
成程、まさにお姫様役にはうってつけだ。
私は、心の中で深く頷いた。
周りを見渡すと、やはり皆も、うんうんと頷いていて。
五十嵐さん本人も、手を横にひらひらさせながらも、本気で抵抗するようすはなく、ちらりと、皆がそういってくれるんなら、という小さな声も聞こえた。
その様子を見ていた委員長も、小さく頷いて口を開く。
「では、ヒロイン役は五十嵐亜美さんでいいですか?賛成の方は拍手をお願いします」
大きな、割れるような拍手が教室を包んだ。