僕等は彷徨う、愛を求めて。Ⅰ


「俺んち金持ちだから」

「……まさかお抱えシェフ……?」

「出前だよ」

「そっち!?」


笑って誤魔化した俺は、母親の料理なんて数えるくらいしか食べたことがない。


家にほとんど帰らねえんだから、食べる機会なんかあってないようなもんだ。



「そういや、彗と有須は?」


オムライスを半分食べてから、今さら気付いたことを口にする。起きてからというもの、顔を合わせてもいなければ気配もない。


「有須は部活で、彗はどっか出かけた」

「ふーん。お前は?」

「あたしは特に予定ないよ〜。あ、食べ終わったら洗濯物干してね」

「げ……女物は凪やれよ」

「分かってるよ!」


ケラケラ笑う凪の笑顔を見てから、俺は残りのオムライスを黙々と口に運んだ。


このマンションに来てから、朝も昼も夜も当たり前に出てくる飯。なんてことないように食べてるけど、最初はどうすればいいのか分からなかった。


自分以外の人間と飯を食うことに戸惑ったんじゃなくて、屋根の下で他愛ない話をしながら飯を食うことが、あまりに久しぶりで。


「……」


最後の一口を飲み込んで、カチャンと皿の上にスプーンをのせた。
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