僕等は彷徨う、愛を求めて。Ⅰ
「……ただの散歩だよ」
エレベーターに乗って黙ってしまったあたしに、彗が優しい声で言った。
「散歩?」
「……そう、散歩」
「おじいちゃんみたい……」
「……俺まだ若いよ」
あたしを見下ろしてフッと笑った彗は、いつもの彗だった。
……さっきのは、気のせいだったのかな?
前髪を横に梳きながらそう思っていると、ポンッと軽快な音が7階に着いたことを知らせる。
「今日の夕飯なんだろうね!」
あたしは先にエレベーターから降りて歩き、振り返る。彗は何もない宙を見ながら、「うーん」と悩ましげな声を出した。
今日の夕飯当番は、確か祠稀だったはず。
「……麺類希望」
ラーメンとか? 麺類が好きなのかな。
「でも凪が祠稀のお手伝いだから、簡単なものじゃなさそう」
「……だね」
ちょっとがっかりした様子の彗に笑って、あたしと彗は夕飯の予想をあれこれ話しながら701号室のドアを開けた。