僕等は彷徨う、愛を求めて。Ⅰ


メールを送信してしばらく、今度は電話がきた。一瞬ためらったけど、すぐに受話ボタンを押して耳にあてる。


少し怒ってる、君の声。


「なんでって、会いたくないもんは会いたくないんじゃん」


明らかに声のトーンが落ちる君。


「あはは! そっちこそどうなの? ちゃんと掃除してる? ご飯食べてる?」


子供扱いに、きっとムスッとして答えてる。


「精神年齢はあたしのほうが上だと思うけど〜?」


大人な君は、子供っぽいところがあるよね。


ほら、すぐ「ひどい」なんて言っていじける。


「ごめんて。嘘だよ。……うん、体も心も大人オトナ」


すぐ調子にのる君。明るい、だけど男らしい声で、最近あったことを話してくれる。


あたしは相槌を打って、大人しく聞いてあげるだけ。


仕事の失敗談、成功談。取引先の頭の固い重役の話、馬が合ったという営業マンとの話。色んな話をしてくれた。


「……まだあるでしょ?」


――最愛の人との話を、まだ聞いてないよ。


少し遠慮がちに、照れながら話す君。


料理を焦がすんだ、いつも洗剤入れすぎなんだ、鈍くさいよねって。


小馬鹿にしてるはずなのに、愛しいって、声が言ってる。

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