僕等は彷徨う、愛を求めて。Ⅰ
「幸せそうだね」
当たり前のことを聞いてしまう。
“幸せだよ。”
当たり前の返事が返ってくる。
――胸が、痛い。痛い。ナイフで抉られるだけじゃ足りないくらい、痛い。
だけど先程の彗の優しさを、あたしを部屋に向かわせようとしてくれた彗の優しさを思い返して、なんとか堪えた。
――ひとりじゃない。彗がいる。
そう自分に言い聞かせて、瞼を閉じる。
「……幸せなら、よかったよ」
“……凪は?”
少しの間を置いてから聞いてきた君を、なんて残酷な人なんだと思った。
――ああ……痛い。
痛い。
あたしが近くにいないことを、寂しいと思ってくれないの? 君の近くにいないあたしが、幸せだと思うの?
簡単に逢える距離じゃなくなったのに……電話だけで、あたしの何が分かるっていうの―――…。
「幸せだよ」
頭の中で廻る言葉全てを飲み込んで、強くはっきりとそう告げる。あたしは息使いで分かる程度に微笑んで、「もう寝るから」と言って、電話を切った。
「……ふっ。ノロケちゃって……」
ツーッ、ツーッ。と携帯から聞こえる虚しい機械音に嘲笑する。パチンと携帯を閉じて、ベッドに寝転んだ。