僕等は彷徨う、愛を求めて。Ⅰ
平穏に蔓延るは
◆Side:凪
「だぁああ! もう無理! わっけ分かんないよっ!」
6月に入り木々が芽吹いた頃。鮮やかな緑を通して窓から吹いてくる風が、机に突っ伏したあたしの髪を微かに揺らした。
「つーかもう帰らねぇ?」
「無理でしょ! 家に帰ったら絶対やらないもんっ!」
ガバッと祠稀の提案に顔を上げたあたしの机には、授業中以外では見たくもない数学の教科書。
「凪って勉強もできそうなのに」
あたしの前の席に座り、参考書を開いてる有須が驚いたような顔をしてる。
「できないよ。うち放任主義だったから!」
「あ〜……それっぽいけど、放任主義は関係なくね?」
「なんだって?」
斜め右の席に座る祠稀を睨むと、「冗談ですー」と肩を竦められた。
「ふぁ……眠……」
右隣に座る彗は、背伸びをして何回目か分からない欠伸をする。なんでそんなに余裕綽々なのか聞きたいくらいだ。
何度やっても分からない問題を睨む。
放課後、あたしたちは間近に迫る学力テストに向けて、教室で居残り勉強をしていた。