僕等は彷徨う、愛を求めて。Ⅰ
遊志が歌うヒップホップの夏歌に耳を傾けながら、あたしの心は切ないバラードソングの気分だった。
……思い出さない。ココアを飲んだって、そのたび思い出したりなんかしない。
だって、あたしは未だに彼のことを忘れてなんていないから。
大嫌いだから、大好きだから、思い出したりしないの。いつも、狂おしいほどに想ってる。
思い出にできないあたしは、忘れられないあたしは、どこまでバカなんだろうね。
「凪っ!!」
マイクで名前を呼ばれ肩を強張らせると、意識が飛んでいたことに気付く。
「どうしたんっ」
「……遊志の美声に酔いしれてた」
「うっそホンマー!? あかんな、ラブソング歌ったほうがえぇんちゃうか俺」
「ううん、大丈夫。サムいから」
「ヒッド! 傷付くやろぉぉお!?」
「いいから早く歌って! あたしこの曲好きだよっ」
……だからお願い、遊志。紛らわして。
少しでも、彼を忘れることができるように。