僕等は彷徨う、愛を求めて。Ⅰ
「……あ」
手に取ったマグカップの中身が空だった。渋々立ち上がり、キッチンへ向かう。
春といっても夜はまだ冷えるみたいで、もっぱらホットココアばかり飲んでいる。
片手鍋で作ったままにしていたココアを火にかけようとすると、キッチンカウンターに置いてあるデジタル時計が目に入り、思わず溜め息が漏れた。
暗がりでは不気味にさえ感じる蛍光グリーンが示す時刻は、午前3時。
中学を卒業して、まだ高校にも入学していない微妙な時期。
……夜更かしするにしても、いい加減眠らなきゃな。
マグカップをシンクに置いた代わりに、グラスに水を注ぐ。
キッチンに付属された引きだしの上段から紙袋を取り出せば、形容しがたい感情が滲み出た。
これは、あたしにはなくてはならないもの。
見たくもなければ、好きでもない。
それなのに捨てられないのは、自分から欠けてしまったものをひとつでも埋めたいからだ。
――カチャリ。寝室のドアが開いた音に顔を上げれば、今度は電気がつけられる音。
「……凪、まだ起きてたのか?」
突然の明るさに目を細め、低い声の主を見ると不機嫌そうな瞳と視線がぶつかる。
口に入れた錠剤を水と一緒に飲み込んでから、唇に弧を描いた。
「大丈夫。もう寝るよ」
紙袋を掲げて微笑んでみせれば、よりいっそう眉間にしわを寄せられる。その表情に苦笑して、紙袋を引き出しに戻した。