僕等は彷徨う、愛を求めて。Ⅰ
「お母さんっ! ソファーにかけて下さい、今お茶淹れますからっ」
「あらあらお構いなく! すぐ失礼しますからっ」
「一杯だけでも! ご不明な点もございますよね? 紅茶と珈琲、どちらがよろしいですか?」
「……じゃあ、一杯だけ……紅茶をお願いします」
返事の変わりに笑顔を向けて、キッチンに足を踏み入れる。
……きちんとしたお母さんだなぁ。有須と、よく似てる。
「じゃあこのマンションは、凪さんのお祖父様所有のものなんですか」
L字型のソファーに座り、有須のお母さんと向かい合いながらあたしは質問に答えていた。
「はい。だから格安で貸してもらってるんです」
「どうりで! こんな立派なデザイナーズマンションが月20万で済むはずだわー……」
「月5万、お高くないですか? 厳しいようでしたら……」
「いいえそんな! 利便性もあって、防犯もしっかりしてるし、安すぎるくらいですからっ」
「ならよかったです」
その後はあまり質問はなく、お母さんは有須のことを話してくれた。
ドジだとかボケッとしてるとか、後半は心配し始めて、有須は恥ずかしそうに笑っていた。
たまに、彗が有須のお母さんに視線を移していたのは気付いていたけど、心苦しくて彗の顔を見ることはできなかった。