僕等は彷徨う、愛を求めて。Ⅰ
───コンッ。
「……彗、起きてるんでしょ」
彗の部屋のドアをノックすると、壁かテーブルか何かを1回叩いた音がした。
「……入るよ?」
再びコン、と音がする。いいよ。彗はそう言ってる。
静かにドアを開けると、真っ暗だと思っていた部屋はブラックライトで淡く照らされていた。
部屋に入りドアを閉めると、ちょうど彗が体を起こしてベッドに腰掛けているところだった。
「……はい、珈琲」
「……ありがと」
マグカップを手渡してから、彗の足下に座る。
しばらくの沈黙の後、彗はマグカップをテーブルに置いた。
「匂いが甘い」
「……悪かったわね」
甘いのが嫌いな彗に悪態を尽きながらも、ココアを早めに喉へ流しこむ。その間に彗はベッドに倒れ込んで、顔だけあたしのほうに向けた。
マグカップを置いて彗の顔の位置まで移動する。
ベッドに肘をつくと、大きな手があたしの髪に触れた。
「……引っ張っんないでね」
「うん」
彗はただ、あたしの髪を指に絡めて遊ぶだけ。昔、よくやられた。