7月7日、逢いたくて



ドームをあとにしたあたしは、未だ放心状態のままカウンターへ向かった。

そして、吹き抜けのちょうど真下に飾られた笹の葉を見上げる。




たくさんの願い事が
あたしの視界を埋め尽くした。


その中に、ふと見慣れた文字を見つける。

あたしはそっとその短冊に目を通す。




“彼氏が出来ますよーにっ!

沖南”


「…おきちゃんってば。」

ふふ、っと笑って
他の短冊に目を移した。




…彼方は
短冊に、何を願ったんだろう。


今になって考えてみると、彼方は今まで一度も短冊を書かなかった。


おきちゃんと二人で何を書くか、盛り上がってるあたしたちを見て

『下らねぇ。んなもんで願いなんか叶うかよ。』

なんて言って
どんなに誘っても、書こうとすらしなかった。



……当たり前だよね。


彼方にとって七夕は、両親の命日で。

それを知らずにあんな事を口にしていた自分が無償に憎たらしい。




「…仕事、しなきゃ。」

ふぅ、と気を取り直し
笹の葉から離れると

あたしはある事に気が付いた。


――笹の葉の一番下。

陰になって見えにくい場所にぶら下がったある短冊。



気になって
その短冊を手に取ると

あたしの心が早鐘のように音を立てた。




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