純愛バトラー
「な……! お前、いい加減な事言うとさすがに怒るぞ!」

「お黙り。
 忘れたの?
 今夜のあなたは最下層民。
 大貧民風情が、平民である私に口答えなんて、命知らずもいいところだわ」

 千沙子はオレを睥睨し、女王のような口調と態度でそう言うと、強引にオレを引っ張って行った。

「長船君。そっちの腕押さえて。抵抗したら鞭打って、自分の分というものを解らせてあげてちょうだい」

「サー、イエス、サー」

「長船っ! お前まで!」

「すみません先輩。僕は無用な争いは極力避ける主義なんです」

「長船君。素直なのは大変結構な事だけど、女性に対して『サー』は適切じゃないわよ」

 千沙子のツッコミを受けた長船は視線をオレから千沙子に固定し、表情を変えぬままこう答えた。

「イエス。サー」

「……いい性格してること」

「恐縮です」

 そんなやり取りを続ける二人に半ば引きずられるようにして、部屋に呆気に取られた青司と絵理を残したまま、オレは隣の部屋へ移動させられた。
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