純愛バトラー
 声をかけようかと思ったが、あまりに真剣に線香花火に見入っているので、そのまま絵理の顔を見つめていた。

 火をつけて、牡丹が大きく成長していく過程では玉が落ちないかと息を呑み、無事に松葉の火花が散り始めるとぱっと表情が輝く。火花が緩やかな柳状に変わると、名残惜しそうにそれを見守り、散り菊の間際には切なげな表情で花火の最期を見守っている。

 その真剣な表情(かお)が、なんだか可笑(おか)しくて、楽しくて、嬉しくて。

 だけど、同時に胸の奥にちくりと刺さる痛みがあって。

 楽しみの邪魔をしないよう、気付かれないうちにそっと絵理のそばから離れた。
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