純愛バトラー
 絵理と見つめ合ったまま、しばしの時間が過ぎる。

「だとしたら、何故そなたは病院に通っていたのだ?」


 不意打ちで心臓を掴まれた。


 時報が鳴り、夕食の時間になったことを告げる。

「時間だ。行こう」

 オレは絵理に背を向けて、母屋の方に向かった。

「……陣?」

「お急ぎ下さいませ。皆が心配いたします。絵理様」

 絵理の言及をはねつけるかのように、オレは執事としての仮面を被った。

 後ろめたい事などないはずなのに。

 その事実を、理由を、オレは口に出せなかった。出したくなかった。
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