純愛バトラー
 住居を兼ねた母の店はずっと閉店の札がかかっており、オレが一人きりで暮らすには、静か過ぎて、広すぎた。

 家や店のいたるところに思い出がありすぎて、孤独な現在というものを否応なしに感じてしまう。それに耐え切れるほど、当時のオレは強くも無くて。

 住み込みで働ける執事という仕事は、とても有り難かった。

 孤独な現実から目を逸らすように、オレは千沙子の理想的な執事兼彼氏として振舞った。

 いつしか病院にも、必要最低限しか足を運ばなくなり、母の看護は病院のスタッフに任せきりになっていった。

 千沙子がオレの心労を減らそうと、病院へ口利きをしてくれた事も、それに拍車をかけた。

 自分でも、随分と酷い息子だと思う。
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