純愛バトラー
 そんな時。

 寝返りを打った絵理の身体が、オレの背中に密着した。

 甘い体温が背中に広がり、首筋に吐息がかかる。

 心臓が跳ね上がり、このまま振り向いてしまいたい衝動に駆られた。

 だけど、今振り向いてしまったら、一時の蜜事と引き換えに、彼女を永遠に失うことになるだろう。

 そんなことは耐えられない。

 居場所を失うのはもう耐えられない。

 だったら今耐えるしかないわけで。

 余計なことを考えずに寝てしまおうと思えば思うほど、背中に神経が集中していく。

 羊の数も、円周率も、オレの心を落ち着けるのに、全く役に立たなかった。
 カーテンが開いた窓から月光が差し込み、部屋を蒼く照らしている。

 結局、一睡もできないまま、オレは黄色い朝日を拝む羽目になった。
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