純愛バトラー
「人目も憚(はばか)らず、嫌がる相手に身売りの要求とは……。いい年をした大人が随分と恥知らずな事だな。自分がどれほど無様な事をしているか、冷静になってよく考えてみるが良い」

 大人しい外見からは考えられないような堂々とした態度で、正面から男を見据える。

「その手を離してもらおう」

 美女を守るように、男の前に立ち塞がる。

 美女自身も、思わぬ援軍に呆気に取られているようだった。

「このガキ!」

 ……あの馬鹿! 挑発しすぎだ!

 オレは慌てて絵理に駆け寄る。

 逆上した男は美女から手を離すと、絵理に殴りかかった。

 絵理はすばやく身を屈めて男の拳をかわし、男の鳩尾(みぞおち)に肘鉄を食らわせた。

 鮮やかにカウンターが決まり、男が膝をつく。

「てめぇ、よくも……!」

 オレは、なおも立ち上がろうとする男の腕を力任せにねじり上げた。

「そこまでだ。これ以上やるんだったらオレが相手になるぜ」

「いででででで! 解った、降参だ、離してくれ!」

 みっともない悲鳴を上げて男が懇願(こんがん)する。

 やれやれ、オレの見せ場はなしか。
 手を離すと、男はほうほうの体で逃げて行った。
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