純愛バトラー
 どうせ絵理も一緒だし、隠す必要もない。

 躊躇ったのは、対面した時の反応が嫌でも想像できるからだ。

 母と対面すると、例外なく鎮痛かつ申し訳なさそうな表情で、口先だけの希望の言葉を口にする。

 正直、それが一番辛かった。

 それ以外の反応はできないと解っていても。

 今日はオレ一人じゃなくて同行者がいる。

 どうせみんな同じ反応をするんだ。一人も三人もたいして変わらない。

 病室のドアを開け、中に入ると、息を飲む音が聞こえた。

 紅葉がぎゅっとオレの袖を掴み、ごめんなさい、と小さくつぶやいた。

 おそらく、事情も知らずにはしゃいだ事への謝罪だろう。

 青司は、何も言わなかった。

 確かにこいつは口は悪いが、根は実直だ。
 口先だけの希望の言葉も、慰めの言葉も口には出せないのだろう。


 ただ一人、絵理は病室を見回すと、世間話でもするかのように言った。

「殺風景な部屋だな」
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