純愛バトラー
「ま、病室だしな」

 絵理が何を言いたいのか、オレには理解できなかった。

「そうであったとしても、だ。これでは起きた時にあまりにも味気なかろう。馬鹿者め。
 まったく、肝心なところが抜けておる」

 ……は。

「華美にする必要はないが、インテリアの一つでも置くがいい。本当は花がよいのだろうが、少々世話が大変だからな」


 ……こいつは、いつもいつも。


「とはいえ、そなたの母の趣味を私は知らぬ。近いうちにまた街へ行って、雑貨屋に……」


 ……オレの予想外の事をしでかしてくれる。


「陣? どうした?」

 オレを元気付けるための方便ではない。
 口先だけの言葉か、本当に心の内から出た言葉か位は、判別できるつもりだ。

 当然のことのように、目を覚ました時のことについて話す絵理を見て、ようやく気付いた。

 心のどこかで、オレ自身も諦めていた。
 このまま目を覚ますことはないだろうと。

 見舞い客の反応が辛かったのは、どこかで諦めていた自分自身を投影していたからだ。


 オレ自身ですら、諦めて、たのに。


 オレは何も言えなくなったまま三人に背を向けた。
 泣いている顔は見られたくなかった。
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