純愛バトラー
「はあはあ。なるほどなるほど。大体の事情は飲み込めました」

 長船はそこで一呼吸置き、左手の中指で黒ぶち眼鏡を押し上げた。

「結論から言いますが、そのキャスティングは僕が知る限りベストの配役ですね」

「なによ、長船君までそんなこと言うの?」

「では訊きますが、一番重要、かつ技量が必要なのはどの役だと思いますか?」

「リーダー格のヒロインでしょう。主役ですもの」

 むっとした表情のままの千沙子を諭すように、長船は続けた。

「その認識は間違いです。
 いいですか。味方サイドのヒロインなんて、そこそこ見栄えがあれば大根役者でも成立するんですよ。
 複数人いるなら、互いにフォローできますし粗もそれほど目立たなくて済みます。
 しかし、悪役はそうはいきません」
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