純愛バトラー
「どういう事?」

「悪役、というのは味方よりも強そうでなくてはいけません。そうでないと緊張感がなくなりますからね。しかも、複数のヒロインを一人で圧倒するとなれば、どれほどの存在感と技量が必要か、お解りになりますか?」

「それは……」

 言い淀む千沙子を見て一息置くと、長船はそのまま続けた。

「はっきり言いましょう。
 ブラックウィドウ次第でこの出し物の成功、もしくは失敗が決まります。そんな重要な役、他に誰ができますか? キャスティングをした人の判断は正しい、と僕は思いますよ」

「そうだったとしても……。蜘蛛よ蜘蛛。あんまりじゃない?」

 千沙子が一番引っかかっていたのはそこのようで、キャスティングには納得した様子だがまだぼやき続けている。

 長船はいつもの表情のまま、ふむ、と一つ頷いた。
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