純愛バトラー
 喫茶店を経営していた母のおかげで、茶を淹(い)れるのだけは得意だった。

 学校から帰ると、よく手伝いをさせられたっけ。

 当時は友達と遊ぶ時間が少なくなって不満だったけれど、今ではもっと手伝っておけばよかったと後悔している。

「陣?」

 過去に落ちかけた思考を、絵理の声が現在に繋ぎとめる。

 いけない。昔の事なんか思い出している場合じゃないんだ。

「何だよ。……それにしても、よくドライだって解ったな。フレッシュとほぼ同じ風味になるようにしたのに」

 昔を思い出していた事を気付かれたくなくて、絵理の言葉を待たずに話を逸らした。
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