純愛バトラー
 元々ほっそりしているので、抱え上げて運ぶのに苦労はなかった。

「様子がおかしいとは思っていたのだ。あの時、私がもっと強く注意していれば……」

 絵理は沈痛な面持ちでぎゅっと唇を噛んだ。

「注意したところで、本人に聞く気がなきゃどうにもならん。あまり気にすんな」

「しかし……」

「そうやって思い詰めて、痛い目にあった事があるだろう。あの時の失敗をまた繰り返すのか?」

「そうか……。そうだな。
 陣。そなたには助けられてばかりだ」

 オレの言葉で、絵理は納得し、落ち着いたようだった。

 冷たい言い草に聞こえるかもしれないが、絵理にはああいう言い方のほうがよく効く。

 不安そうにオレを見上げる絵理に笑ってみせると、男子寮へと向かった。

 雨の勢いは、更に強くなってきた。
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