純愛バトラー
「医者からそう言われたのか」

「ええ」

 雨はまだ止まない。

 空だけじゃなくて、心まで鉛色になりそうだった。

「あんまり当てにならんもんだぞ。医者の余命宣告なんて」

「気休めはやめてください」

 ギリ、と歯噛みしながら、青司は低い声でその言葉を押し出した。

「気休めじゃねえよ。他の誰がなんと言おうと、お前だけは信じなきゃ駄目だ。見捨てるなよ。たった一人の妹だろ」

 オレがそう言うと、青司はくく、と笑った。
 憤りと悲しみを含んだ暗い笑いだった。

「信じる? どうやって? 紅葉はそもそも治っていたはずなんですよ。
 俺がドナーになって、移植手術をしたんですからね。

 それなのに、一年もしないうちに再発して、あと数ヶ月の命。

 俺だって信じたいですよ。でも、信じれば信じただけ、その代償は自分に跳ね返ってくる。

 あなたみたいな奇麗事は言えない。

 限りなく可能性が低い不確かなものを信じられるほど、幸運に恵まれてはいないんです。

 あなたは信じられたんですか。医者から何を言われても、治るって。
 あんな絶望的な状況で。どうやったら信じられるんですか」

 低く淡々と、青司はオレに自分の激情を叩き付けた。
 外の雨音が、いっそう強くなった。
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