純愛バトラー
「ちがうの。自分のためなの。
 確かに、歩くのが辛いって思うときもあるよ。
 でも、それ以上に、お話しすると、元気になれるの。

 起きたらね、聞きたいこと、話したいこと、たくさんあるんだ。
 陣が小さかった頃の話とか、恋の話とか、色々聞いてみたいの。

 お見舞いに行くのは、わたしのため。
 他の誰のためでもなく、わたしはわたしのために、お母さんと話せる日が来るのを待ってるの。だから、陣が気にする事なんて、無いのよ」

 そう言って笑った紅葉の瞳は、真っ直ぐに未来を映しているように見えた。

 そんな紅葉の様子をじっと見ていた絵理が、表情を崩して呟いた。

 オレが今までに見たことが無い、遠くを見るような顔で。
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