純愛バトラー
 青司から、涙で湿った怒声が堰を切ったように溢れだした。

 医師に掴みかかる勢いで詰め寄ろうとする青司を、絵理は後ろから抱きしめて止めた。

 青司を抱きしめた絵理の両腕も震えている。

 両手は、青司の服を掴んで強く強く握られていた。

 絵理に止められた青司は、歯を食いしばって両手を強く握った後、大きく息を吐いた。

「……紅葉に。妹に会わせて下さい」

 医師は頷くと、オレ達を紅葉のところへ案内した。

 紅葉の顔は穏やかで、ただ眠っているだけのように思えた。

 だが、心電図はずっと平坦な波形を示したまま、動く事はなかった。

 青司はそんな紅葉を呆然と見つめていた。

 医師が紅葉の臨終を告げ、オレ達は外で待機するように言われた。

 その間に、親族や葬儀屋への連絡をするように、とも。
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