純愛バトラー
 何でだろう。

 午後の授業の内容が頭に入ってこない。

 機械的にノートは取っているが、それだけだ。

 春の陽気のせいなのか、集中しようと思っても取り留めの無い事ばかり考えてしまう。

 沈んだままの千沙子の事。
 仲の良さそうな絵理と青司の事。

 今朝の玄関での事。


 不意に、切った指先がまだ熱を持っている気がした。血なんかとっくに止まって、かさぶたになってるのに。

 やれやれ。

 たいした傷でもないのに、気にしすぎだよな。

 少し開いた窓から入る風が、オレの頬を撫でて髪を揺らす。
 桜の花びらがひとひら、オレのノートの上に落ちた。
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