純愛バトラー
「馬鹿ね。気を使って屋敷を出て、母を恨むより自分を恨んでくれればいいとでも思ったの?
 お生憎さま。私はもうずっと前から、母のことは大嫌いだわ。
 私は、あの人のようにだけはなりたくなかった」

 そこまで言って、千沙子は自嘲的に笑った。

「だけど、私も母と同じね。主人という立場を利用して、貴方の恋人気取りで。母とまったく同じことをしていた。その癖、貴方の気持ちも考えず、私の気持ちばかり押し付けて。全部あの子のせいにすることで、自分を正当化して……」

 千沙子は、既に涙声になっている。搾り出すように、言葉を続けた。

「ごめんなさい。謝っても許してもらえるなんて思ってないわ。だけど、ごめんなさい、陣。ごめんなさい、御剣さん……」

 あのプライドの高い千沙子が、地面に手をついて謝っている。
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