恋*クル


そこにいるのは、あたしが知っているヘタレの武人じゃない。

きっとこれが、信一くんの言っていた、無愛想で無口な、武人の本当の姿なんだ。



無言のままあたしがこくりと頷くと、武人は掴んでいた腕をゆっくりと放す。



「梓は……どっちの俺がいい?」



いきなり呼び捨てにされて、不覚にもあたしは、ヘタレを装っていたこの男にドキッとしてしまう。



「どっちがいい……って……。意味分かんないんだけど」

「どうもヘタレな方は嫌みだいだし」

「……訊く相手が違うんじゃない?」



きっぱりと言い放つあたし。

武人は、わずかに顔を歪ませた。


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