戦国サイダー
私を見下ろすその顔は。



人間とは思えないほど美しく、恐ろしかった。



他に何も考えられないほど、その冷めた顔に目を奪われる。



だけど、その表情は一瞬で消え去った。


瞳に色が戻り、逆に顔色は青ざめてゆく。



「す……まぬ」



私から手を離すと同時に、鬼虎の口から言葉が漏れた。



自分が不思議だった。


突如組み敷かれて、首を絞められそうに、いやもしかしたら折るつもりだったのかもしれないけれど、そんな状況に陥ったのに。



怒りという感情は、微塵も生まれてこない。



寧ろいつもの冷静さを失ったかのような雰囲気が心配になる。


額に汗が浮かび、呼吸が浅く見える。



「大丈夫?」



鬼虎が少し俯き、黒髪がはらりと一房落ちてきた。



「落ち着いて、私は大丈夫だから」



どうしたのだろう、どうしていつもみたいに憎まれ口を叩いてこないのだろう。


どうにか状況を打破したいのだけれど、上に跨られていては身動きが取れない。


 
< 100 / 495 >

この作品をシェア

pagetop