戦国サイダー
「ああ、しかし兄上のことは尊敬しておる。それとこれとは話が別だ」



鬼虎の瞳は泣いているけど、涙は零れていない。


表情だって、雰囲気だって、気落ちしているわけじゃない。


ただただ、過去を、記憶を見ているように私には思えた。



「第一本当にそうだったのかも怪しいのだ。確かにその娘は兄上の母親のところで下働きをしている者だった。だがか細い女の手で、儂が殺せるとは思えん」



それもそうなのだろう。


だけど、真実がどうであれ、そういう話が出てしまったら。



例え一瞬でも、心に傷はつくでしょう?




「思李?」



いくら考えても、私では意味のある言葉を紡げない。


何もかも違い過ぎるのだ、経験も感覚も。


だから、唯一言えそうなこと。


 
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