戦国サイダー
慌てて茶の間に行くと、網戸の向こうに自転車を止めて立っている由惟さんが見える。


 
「わざわざごめんなさい」


「いいって、半ば押しつけてんだし。ほら」



網戸を開けて言うと由惟さんが笑う、犬みたいに。


みんなはこの人のこと「狼みたい」と言っていたけど、私にはどちらかと言うと「犬」に思える人だった。


寧ろ「子犬」



「ありがとう。麦茶飲む?」



家に上げる気は無かったけど、熱帯夜に自転車で山道を登って来てくれたのだ。


それぐらいしないと、なんだか悪い。



「ん? ああ、じゃあ一杯だけもらおっかな」



西瓜を縁側に置いてもらって、座っていいよ、と声をかけて。


私は麦茶を用意しに台所へと戻る。



もっと、気まずいかと思っていた。


だって振ったのは私だし、時間が空いてるとは言え、ひとつ上の由惟さんは別れてすぐ大学へ行っちゃったわけで。


 
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