戦国サイダー
そして台所へとちょうど足を踏み入れたとき。



「儂は、いいのか?」



背中の向こうから、控え目な声が聞こえてきた。



「……え?」



お盆を持ったまま振り返ると、腕を組んだ鬼虎が座ったままこちらを見上げていた。



その瞳は、珍しくただただ綺麗で。



濁りのないガラス玉みたいに思えた。



「儂が触れても、お前は嫌がらぬのか」



低く、どこか遠慮がちな声。


それを発する唇が、艶(なま)やかに震える。




言葉が、生まれてこない。



嫌がらない? 触れられても?



そんなこと、考えてもいなかった。


 
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