戦国サイダー
考えてなかったわけじゃない、寧ろそれを予測してたからこそ、私は現状維持を望み、何も行動を起こさないできた。


だけど、改めてそれを他の人の口から言われると。





こんなに、苦しいものなのだろうか。


 

「思李……残酷かもしれないけど、これだけは、と思ってるものが俺にはあってね」



兄は静かに、でも優しい微笑みを浮かべたまま、現実を告げる。



「まず、虎にはきちんと元の時代に帰ってもらうこと。そして、お前とは将来を考えるべきではない、ということ」



それを兄は『残酷』と称したが、私には『避けられない事実』として聞こえてくる。



「お前も馬鹿じゃないから、わかるとは思うけど」



涙さえも出ない程、感情が上手く起こせなかった。


ただ、兄の言葉に小さく頷く。



「虎が過去から来たのなら、過去からいなくなってしまえば歴史が変わる。特に虎はこの地方の有力武士の一族だ。彼が戦国時代から消えて、結果どうなるかはわからない。

でもほんの些細なことでも、例えば彼の子孫が産まれなくなるということだって、それはあってはいけないことだと思うんだ」



頷くだけの私の頭を、兄がもう一度ぽんと撫でる。


 
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