戦国サイダー
「戻る方法など」





その瞬間、何を考えていたかはわからない。



ただ衝動に駆られ、虎の浴衣の袖を引っ張り、踵を上げて。





動こうとしていた唇を塞いだ、自分の、唇で。





虎の手から、ビニールの袋が落ちて、ぐしゃり、潰れた音がした。


金魚がぴしゃり、波を立てる。



「思李?」


「いっちゃ、ダメ」



唇を離してもなお、その瞳から消えたくなかった。


鼻緒が指の間に食い込んでゆく。


 
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