嫌いな男 嫌いな女
『おとなりの巽くん』
自分で言うのもあれだけど。
自分の口が悪くて身長が低いってことはわかってんだよ。
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晩飯の時間は地獄だった。
っていうか今日は朝から最悪だったとしか言い様がない。
「ほんっとバカよねー巽は」
「うっせーな。しつけえしつけえ」
「そういう口の悪いところがバカって言ってんのよ」
隣に座るやたら偉そうな女、姉貴の渚がすました顔で味噌汁をすすった。
「脳みそが働いてないのよあんたは。口が先に動く上ににこりともしやしない。あーあ、かわいそう美咲ちゃん」
……朝からずーっとこの話だ。
顔を合わせれば渚もおかんも同じ話ばっかり。
おとんはケタケタと笑って何度も話を聞くから余計だ。うっとうしい。
「ほんっとうに恥ずかしかったんだから! 次会ったらちゃんと美咲ちゃんに謝るのよ!」
なんでだよ。
そう言いたかったけれど、言ったらこの話が永遠に終わらないだろうと口をつぐんだ。
……でも、男に見えたんだもんなあ。
俺のせいじゃないだろ。あいつがあんな男みたいだから悪いんじゃねえの?
今日引っ越してきたとかいって突然家に来て、呼ばれて出て行けば男みたいなやつがスカート履いてるんだからなんでって思うだろー。
思ったら口から出ちゃっただけだっつーのにさ。
っていうか俺殴られたんだけど!
しかもあいつ俺に“チビ”って言ったんだぞ。
あいつも十分悪いだろー!
って言えば、お前が先にあんなこと言ったからだって言われるんだけど。
……女だってわかったのも、家に入ってからやっとだったのに、わかるわけねえじゃん。
どう見ても男の子だろ。クラスにだってあんな女はいねーよ。
俺よりも短い髪の毛。黒い日に焼けた肌。高い身長。
どう見たって男で、スカートの方が不自然じゃないか? ズボンでくりゃあ俺だって挨拶くらいしたっつーの。