嫌いな男 嫌いな女
巽を避けて、巽も私に話しかけることがなくなって、すごく長い時間が経っているような気がするのに、まだ2年なんだ。
まだ、あの日のことを、思い出してしまう。
ほぼ毎日、窓を見る度に、苦しくて悲しくて悔しくて、涙をこぼしてしまいそうになる。
なにに対してなのか、自分でもわからない涙が。
なんであんなことを。
練習だとしても、なんであんなことを。
キスされたことが悲しいのか、そんな理由でキスしたことに悔しいのか、それとも、その前に言われた言葉がムカつくのか。
自分でもよくわからなくなる。
なんで、まだ私はこんなに巽に振り回されているんだろう。
顔も見ていない日々なのに。
どうしてこう、いつも巽を思い出してしまうんだろう。
ああ、いっそ。
「いなくなればいいのに……」
思わず電車のドアにもたれかかりながら、ぼそりと呟いた。
「え?」
はあっとため息を落としていると、向かいで私と同じようにドアから外を見ていた男の子が驚いた顔をして私を見てきた。
え!? わ、なに言ってんの私!
「すみません、あ、その独り言……です」
慌ててフォローをすると、男の子が目をパチパチさせてから、くすっと笑みを零す。
「はは、びっくりした。俺に言われたのかと思っちゃった」
「すみません……」
「あはは、いいよ、こっちこそごめんね突然反応しちゃって」
目を細めて笑う男の子は、すごく人懐っこく見える。
ちょっとくせっ毛なんだろうか。毛先はいろんな方向にはねているけれど、寝ぐせみたいにだらしない雰囲気はない。むしろオシャレって感じ。
多分、黙っていたらかっこいい系の男の子だと思うけれど、笑い方が豪快だから、かわいく感じてしまう。