嫌いな男 嫌いな女
なにも言えないでいる俺を置いて、渚は満足そうに部屋から出て行った。
ほんっと偉そうだな。姉貴面して、ムカつく。
でも。
言われたこともわかっちゃいる。
知ってるやつなんてだれもいねえんだよな、引っ越してきたってことは。
納得できるけど納得出来ない感じで、口をとがらせた。
だって謝れって言われても謝りたくねえし。むしろ謝って欲しいし。
でも、でもまあ。
……今度見かけたら、普通に声くらいはかけてやっても、いい、かもしれない。
謝らないけど。
隣から大きな音が響いてきた。
外からだから引っ越しの片づけとかしてんのかな。
でも俺から話しかけるのもなんかどーなんだよそれ。
でもなあでもなあ……。なんというか釈然としない。負けたみたいな気もしてしまう。
——ガタ、ガタガタ。ガタン!
相変わらず外がうるさい。
あ、今なんか落っことしたな。
こんなけ騒がしい片付けってことは一緒にいた弟の部屋が隣なんだろーか。
男女みたいでも女なんだよなあ。
女相手にいつまでも怒ってるのもかっこ悪い気もするしなあ。
んーと唸りながらゴロンとベッドで転がると、——ガチャガチャン! と今度はなにかを割った音が聞こえてきた。
うっせーなまじで。
もういい加減寝ろ。騒がしくてなんも考えらんねえだろうが。
ちっと舌打ちをしてベッドから体を起こした。
いや、待てよ。本当にこれ隣の家か? あまりにも音がうるさすぎる気がするんだけど。窓が空いてるっていうのもあるだろうけど。
もしかして変質者とか泥棒とかっていう可能性もある。
しばらく考えて、傍にあった長い定規を手にして窓に近づいた。
もしかしてってこともあるし。
ゆっくり窓を覗きこむ。とまた大きな音が響いて思わず勢いよく窓を開けてしまった。