嫌いな男 嫌いな女

「ったく……」


はあーっとめんどくさそうな顔をしながら頭をかく。
またそのくせだ。わかりやすい。

きっと“めんどくせえなこの女”って思ってるんだろう。自分でもそう思うわよ。巽といると自分が本当に面倒で子どもみたいだって思っちゃうんだ。


「戻れば?」

「こんな状態になって戻れるか、バカ」

「バカバカ言わないでよ!」


嬉しいと思ったのは気のせいだ。絶対気のせいだ。
じゃないとおかしい。絶対おかしい。
だってこいつはやっぱり、口の悪い無愛想な男だもの。

なのに……なんでだか、また泣きたい気持ちになってしまう。

嬉しいのか、悲しいのか。よくわかんないや。


「ケンカかなあ……」
「カップルの痴話ケンカだろ」


向かい合ったまま無言でいると、通りすがりの人がこそこそとそんな話をしているのが聞こえてきた。

……もしかして、私達だいぶ、目立ってる?


「ちょ、取り敢えず行くぞ」

「え?」


オロオロしている私の肩を掴んで、巽が急に歩き始めた。
私が横を見ると、巽の肩が見えて顔が見えない。……いつのまにこんなに大きくなったんだろう。

背の高い巽は背だけじゃなくて体も大きくなってる。
私なんかすっぽりと収まってしまいそうなくらい、大きな巽。

こんなに近くに巽がいるのって、初めて、だ。


——とくん、と、胸が小さく跳ねた。

ん? いやいやいやいや! なんだこれは!?
抱かれる肩に、巽の腕に、胸に接触する部分に神経が集中する。そこから熱が広がっていって、体温が上がっていく。

いや、いやいやいや、なんなのこれ!
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